Sofa Stories Sofa Stories

ソファストーリーズ

ソファはいつも暮らしのまんなかにある。

一人もの思いに耽る時
親密な二人の空間
わっと花の咲く家族の賑わい

ぜんぶ抱きとめるソファは、あつく、寛大で、やさしい。

四季折々、日々折々
名前のつかない一つひとつの日常の
暮らしの些細を覚えている。

陽のにおいも、夜の静けさも、
すいもあまいも染み込んで、
ただ、いつもでもそこに。

それぞれのソファに織りなす物語。

姉と妹、私たちの場合。
大人になって
「お揃いのソファ」

我が家には「姉のソファ」がある。いや、正しくは「姉と同じソファ」だ。年が近いわりに、小さい頃に姉の真似をし、好んで姉妹お揃いなどをもった記憶などほとんどない。 そういえば、まったく同じものを持つなんて、自分の意思では初めてかもしれない。
姉の家にあったソファと同じブランドの同じ形のものを買ったあと、そんなことに気づいた。

結婚をして子どもを生んでそれぞれが新たな家庭を築き、いい大人になって、初めての色違いのお揃いを、それも結構大きなものを、私たちはもったというわけだ。

・・・

子どもが取り合い乗り合うためにへたりが早く、「人のかたちにフィットするクッション」には結構な頻度でビーズ補充していた。2年ほど使い、ああまた補充しなきゃというとき、ふと「もうこれは卒業しようか」と思った。これから子どもたちはまだまだ大きくなるのだから、いっそのこと次は補充をせずに、ソファに変えてみるのはどうだろうか。そんなことを考えていたときに、ちょうどできたばかりの姉の新居に招かれた。そしてその場で、姉のソファに「決めた」のだった。

二つ上の姉。「年の近い姉妹、いいですね。昔から仲がいいでしょう」と言われることが多いのだが、そう聞かれると、はあ、そうですね、と言うものの、心のなかではううん、そうだっけ? とも正直、なる。
一番上に兄がいて(私の4つ上)、どちらかというと兄と姉が仲良く、末っ子としていつも子分っぽい役割を担っていたからかもしれない。姉と仲良く遊んでいたことよりも、二人がグルになって「お母さんになにかしてきて」と行かされた思い出のほうが強い。時々、母が買ってきた姉とお揃いの服を、姉が体の成長で先に着られなくなると「やった! 私はまだ着られる! 私だけの服!」と、なんだか勝ったような気持ちにもなったものだ。

姉と仲良くなりだしたのはわりあい成長してからで、きっかけは「服の貸し借り」だった。中学、高校あたりから互いの服を貸し借りするようになり、それが「友だち」のような存在になっていくやり取りだったように思う。中学生にしては周りよりも大人びた服を着られることがうれしかった。自分よりも先に髪を染められる姉を羨ましくも思ったっけ。蛍光灯の光に透ける髪の毛を手にし、急に大人びた姉には、少しだけ憧れも抱いた。

お互い学校の地域が一緒で、バイト先も近く「いまどこにいる? 買い物しててどっち買おうか迷ってるから来てよ」ということもよくあったし、親はまだ会ったことのない姉の彼氏に自分だけが会ったこともある。大人になってから、友だちのような何ともいえない距離を掴んだ。

昔だったら、姉と同じソファにはしなかったかもしれない。

前からも後ろからも座れる、という利点にも大きく惹かれた姉の家のソファは、届いて数ヶ月もすれば、すっかり「うちのソファ」になった。片ひじ付きにして「座って右ひじ」まで同じ。それでも、そりゃあそうなのだが、全然違って見える。家のありかたやそこに居る人が違えば、こうまで変わるものなのか。

小学6年生、4年生の男の子が二人、幼稚園年少にあがった長女、三人の子どもたちはというと、届いたソファのいたるところにお気に入りの場所を見つけて、3人のうち誰かがよく新しい場所に横たわっている毎日だ。

それでなくとも、子どもや子どもの友だちが一番ソファで過ごしている気がする。今日も例にもれず、長男の友だちが遊びにきていて、彼らはソファを“島(シマ)”と呼んでいる。小さな陣地みたいなものなんだろうか。おやつを食べて、ぎゅうぎゅうに座ってゲームをしている。長女も負けじとずんずんそこにと入っていき、しっかりと自分の居場所を確保していた。幼い頃の兄と姉と私だったら、私はこんなふうに陣取ったりできなかっただろうなあと、たくましい娘をみて思わず苦笑する。

そういえば姉は、ソファの手入れはどうしているだろう。

ぽろり、と子どもたちの口からおやつのかけらが落ちるのが目に入る。夏だし、頻繁にカバーを取り外して洗ってもいいかもしれない。子どもたちの夏休みの終わりまでは、毎週洗いたいくらいだ。夜ご飯が終わった頃にでも、姉に電話してみようか。

姉のことを考えると、最近はソファに座っている姿を思い浮かべる。月に一度は会う姉は、いつも忙しなく動いていて、ゆったり座って過ごしているところなんてほとんど見ないのに、不思議だ。

姉も、この家のソファに座る私を、時々は想像してみたりするんだろうか。同じだけれど、まったく違うソファに座る私たち。

「昔から」ではないけれど、「いま、仲良しですよ」。それが、私たちの場合だ。

Illustration by fujirooll
Text by SAKO HIRANO (HEAPS)