Sofa Stories Sofa Stories

ソファストーリーズ

ソファはいつも暮らしのまんなかにある。

一人もの思いに耽る時
親密な二人の空間
わっと花の咲く家族の賑わい

ぜんぶ抱きとめるソファは、あつく、寛大で、やさしい。

四季折々、日々折々
名前のつかない一つひとつの日常の
暮らしの些細を覚えている。

陽のにおいも、夜の静けさも、
すいもあまいも染み込んで、
ただ、いつもでもそこに。

それぞれのソファに織りなす物語。

ソファでご飯を。我が家の食卓の風景

我が家のソファ選びは少し変わっていたと思う。
新しいソファを買うときに基準にしたのは、食卓テーブルだ。

うちは「1日3食ソファで」の家だ。人に話すと驚かれることもある(というか、よくある)。小学3年生になる娘と4歳になる息子がいるのだから、尚更かもしれない。「それ、ソファ汚れたりしない?」という質問はいつものことで、「まあ、ねえ」とぼんやり返事している。

そりゃもちろん、こぼしたり、落としたり、ついたり、いろいろある。それでもうちは「食べるときはソファで」。おいしいものはソファで、というルールは、もしかすると我が家においてもっともユニークなところかもしれないと、最近思う。

幅160センチ、奥行き80センチの大きな特注テーブル。

「ソファを買うならテーブルがあったほうが便利かもね」と私と夫のどちらかが言い出し、「どうせなら、食後そのままソファでくつろげたらいいよね」と次にどちらかが言う。「食卓に楽しく長い時間いたいよね」となり、「じゃあ、ダイニングテーブルとソファを、揃えて置こうよ」となったときには、二人とも同じ顔をしていたと思う。

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カウチソファの前にテーブルをおいて4人で座る。
朝も、夜も、おやつも、休日のお昼もなんでも「食べ物、飲み物はソファで」になった。

思い返してみれば、ソファの購入も私にとっては初めてのことが多かった。
店頭巡りをしたかったが、ちょうどステイホームの頃。オンラインで探すことにしたものの、“食卓とあわせる”という独特の理想像のために、どうしても店員さんに聞いてみたいことがでてくる。それこそ息子がふいにぽろりとこぼすお菓子のように日々、でてくる。気になるソファブランドが「LINEやり取りサービス」をしているということで、試してみることにした。

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はじめましてのあいさつをし、気になったことを聞いていく。身長180センチの夫、高さ60センチの食卓。ちぐはぐなままでは食卓も馴染むまいと、答えづらいかもと思いつつ、二つのセンチメートルはどのようにあわさるのかを聞いてみると、写真を送ってくれた。

同じくらいの身長の店員さんが座ってご飯を食べている画、くつろいで食事をしている想定の画だった。

そこからは、スナック菓子の袋を“パーティーあけ”するようにパーンとひらいて打ち解け、最初は文字のみだったメッセージにも、折々に絵文字が入るようになった。少しずつソファのピースがはまっていくようで、返事がくるのが楽しみになる。通知音がなれば「ソファ屋さん」を一番に思った。

約4週間、17往復のLINEのやり取りをした。

返信が待ち遠しく、写真が送られてくればにやにやと眺める。ふと、新学期の新しい友だちとのやり取りや、好きな人ができたときのことをなぜだか思い出した。ソファが決まって感謝とお別れのメッセージを送りあったとき、別れと出会いの予感で不思議と満たされた。

食べるのが大好きな我が家の大切な場所なので、生地にもうんとこだわった。サンプルを送ってもらい、これでもかと肌触りを吟味した。お届け日は娘も息子もおおはしゃぎで、競うようにソファに頬擦りを繰り返す。飼い猫のまろんよりも、しっかりとマーキングしていた気がする。

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特注テーブルに、カウチソファをあわせて置く。155センチの私、180センチの夫、そしてまだまだソファに足のつかない4歳の息子、9歳の娘がならぶ。いつもの座る順は、奥行きが短いほうの端から、私、息子、娘、夫。誰がどこに座るかでやいのやいのと話してこの定位置に落ち着いた。そのうち席替えもあるだろう。

息子はというと、大好きな牛乳を飲むときにもわざわざ自分の定位置に座って飲む。とても大切そうに飲むそれはどうにもおいしそうに見えて、あとで自分でも飲んでみたりした。

よかった日も普通の日も、嫌なことがあった日も、ソファでとりあえずおいしいもの、食べよう。もう少しここで一緒に笑っていよう。少し不思議な食卓の風景、我が家のソファがあるところ。

Illustration by fujirooll
Text by SAKO HIRANO (HEAPS)