Sofa Stories Sofa Stories

ソファストーリーズ

ソファはいつも暮らしのまんなかにある。

一人もの思いに耽る時
親密な二人の空間
わっと花の咲く家族の賑わい

ぜんぶ抱きとめるソファは、あつく、寛大で、やさしい。

四季折々、日々折々
名前のつかない一つひとつの日常の
暮らしの些細を覚えている。

陽のにおいも、夜の静けさも、
すいもあまいも染み込んで、
ただ、いつもでもそこに。

それぞれのソファに織りなす物語。

あの頃恋人と、いま妻と娘と。ソファが教えてくれる“期間限定の日々”のこと

膝も背中も痛い。ああ、やっぱり今日ももう移動しようか。いろんな体勢を試してみてはまた新しく体の場所を痛くし、あきらめてベッドに移動する。

1LDK、二人暮らしの僕らの生活の真ん中には、全面革張りの茶色のソファがある。7年前、結構奮発して買ったソファで、ひとり暮らしだった僕の前住居からともに越してきたものだ。

「少し値が張っても、いいものを長く」と昔から父に教えられていたので、ここでもしっかりとそれを発揮し、輸入家具店で吟味して選んだものだった。

妻と僕はよくソファにいる。というか、逆にいえばそれ以外いるところがないので、二人とにかくソファにいる。相手に遠慮せずに一人でのびのびとソファを占有することはお互いにできず、どちらかが横になりたければ、いろんなふうに縮こまってみるしかないのだ。そうしていつも、15分もせずに床におりて寝そべるか、ベッドに移動することになる

そんな生活スタイルに、そろそろ終止符を打とうぜ、と妻と話したのは、引っ越しを決めてからだった。リビングも広くなるならば少し大きめのソファを置いてみてもいいんじゃないか。

なにより、好きなように横になって、テレビを見たりうたた寝したりしてみたい。手足をのばしてゴロゴロできるリビングにしたい。実家が「茶の間にコタツで正座」だったので、そもそもそういったスタイルでの寛ぎに僕は大いなる憧れも持っていた。

妻も賛成だった。「大人2.5人」が座れるものにしよう。それが、寝転びたい僕らのサイズの目安になった。大人がしっかり足を伸ばして、寛いでも大丈夫。人を招いても過ごしやすい。それをしっかりと許容してくれるソファ。サイズが第一条件だ。

その次に、今回は生地にもこだわったほうがいいねと話し合った。革張りソファは冬に冷たいと感じることもあったので、ファブリックタイプにしてみるのかもいいかもしれない。

もうすぐ引っ越しだ。引っ越して生活が落ち着く初夏には、娘も生まれる。

・・・

妊娠中の妻の要望を聞き、任せてくれとソファ探しを担当したのは僕だった。SNSやネットで見てみるとなかなかいいソファが多く、目移りしながら一つひとつ店に行っては座って確かめる。

目星をつけはじめた頃に、一つ大きな誤算がわかった。「お届けは、春先ですね」。僕が目をつけていたカスタマイズタイプのソファは、納期が4ヶ月くらい先になる、というのだ。数週間くらいで届くものだと思っていたので、驚いてしまった。ほかのソファもだいたいそうなのだろうか。探しはじめる時期が遅かった、考えが甘かった。

ソファ探しを急いでいた理由はもう一つあった。妻の悪阻がひどい時期にあるようで、とにかく早く新しいソファでゆっくりと休んで欲しいと思ったのだ。

寒さも厳しくなる12月を目前に、がっくりと項垂れてとぼとぼと歩いた。『わあわあと泣いている、大人なのに恥ずかしくないの?』と、いつか聴いた歌が頭の中に流れてくる。泣きたい気分だった。

そんななかで出会ったのが、国産ソファブランドのNOYESだった。インスタグラムで目にした写真に惹かれてショールームに見にいくと、なんと1ヶ月で届けてくれるという。

むしろ「そんなに早くて大丈夫なのか?」とすら考えてしまった。年内に届けてくれるなら妻もゆっくりできるだろうし、僕も念願の寝正月をソファで堪能できる。互いの両親や友人への引っ越しお披露目も、俄然楽しみになった。

やり取りを重ねて生地などの細部を決めていき、ついに我が家のソファが決まった。ショールームに行っては長時間悩み続け、こっち、いややっぱりそっちかな…を繰り返す僕に、嫌な顔を一つせず親身になって対応してくれた。

NewSugar Hi-Backワイド2人掛けカウチソファセット。当初の2.5人の想定よりもさらに余裕をもったサイズだ。奇しくもお届け日は12月26日。ちょっと遠回りしたサンタが遅れてごめんとやってくるようなものだねと、妻とカレンダーに予定を書き入れる。星マークもつきだ。

待っている1ヶ月のあいだ、準備は万端に進めたので届いてからはスムーズだった(お届け前日の夜まで、細かな配置場所をああだこうだと検討していたのだが)。

届いたソファにあわせて新しくリビングテーブルも購入。雑誌やお菓子を配置するスポットをつくった。大好きな麻辣ピーナッツは常時ストックし、手を伸ばせばいつでも取れる。

どうせなら、とオットマンも追加購入していたので、とにかくいろんな配置をしては寛ぎ体勢を楽しむ。より快適なうたた寝ができるようにと薄手の毛布も購入した。「いま、おれは、リビングでゴロゴロしている!」と、世界中に言いたい気分だった。

ところであの茶色い革張りのソファは、実家に譲ることにした。捨てられない理由は、7年の愛着のほか、僕がひっそり夢みていた「恋人と横並びで座る」を実現してくれたソファだからだ。奮発して買ってから2年後くらいだったろうか。当時は遠方にいた恋人が、東京まで来てくれた日。

「遂に今日、ここに彼女が来る。ほかに居るところもないし、きっと横並びで座るんだ」とソワソワしっぱなしだったことを覚えている。座ってみるとちょうど肩が触れあう程度で、達成感がありつつも、慣れない感覚にどぎまぎして居心地の悪さも感じていた。テレビを見ていたはずだが、内容はまったく覚えていない。

あの時「今日、彼女がここに座ってくれたら」。そう思った人が今日も隣にいる。

娘が生まれてから、妻だけでなく僕も育児休暇を3ヶ月ほど取得した。毎日、育児と家事に終われる日々。娘が眠った21時以降は、二人でテレビやYoutubeを見たりして過ごした。

将来のことをとりとめもなく話す夜更け、せっかく大人2人が座っても余裕のあるサイズのソファを買ったのに、僕らは結局、寄り合って端にいた。持て余したスペースを見ながら笑いあえる幸せは、純度100パーセントのあたたかさで、いつまでも噛み締めていたい気持ちになる。

最近では、カウチのうたた寝スペースに、娘の絵本やおもちゃが置いてあることが多くなった。一人ソファで気兼ねなくのんびりと過ごす時間はだんだんと減っていくのかもしれない。

恋人と隣どうし並んで座ることを夢みたソファ。一人で足を伸ばすことを切望したソファ。結局は端に寄り添って過ごすソファ。そしていま、足元の背にもたれる娘がちょっこりといるソファ。

その時その時にしか見られないいくつもの日があるんだなあと、ソファに座って思う。いまだけしかない期間限定の、ソファでの過ごし方。

もう少し娘が成長したら、足元から這い上がってくるだろうし、さらにもう少し成長したら、このソファででーんと一丁前に一人お昼寝をしたりするのかもしれない。3人で並んで過ごす日が待ち遠しくなってくる。

なんてことない、でも二度と戻ってはこない日々がソファに積もっていく。このソファにもいつかヘタりがきたら、それはそれだけ思い出が多いのだと、そう思えたらいい。

Illustration by fujirooll
Text by SAKO HIRANO (HEAPS)